Ⅰ.概要
合同会社の社員は、会社に対して「出資の払戻し」を請求することができます。
また、退社した社員は、会社に対して「持分の払戻し」を請求することができます。
ただし、合同会社の場合には、いずれの払戻しについても制限があります。
Ⅱ.出資の払戻し
合同会社の社員は、定款を変更してその出資の価額を減少しなければ「出資の払戻し」を請求することができません。
また、定款変更を行ったとしても、一定限度(払込み又は給付をした金銭などの額「出資金額」)を超える「出資の払戻し」はできません。
この「出資の払戻し」のためには資本金の額を減少させる必要がありますが、合同会社が資本金の額を減少させる場合には、その合同会社の債権者は、その合同会社に対し、資本金の減少について異議を述べることができるとされています。
Ⅲ.持分の払戻し
合同会社を退社した社員は、「持分の払戻し」を受けることができます。
「持分の払戻し」は、退社の時における合同会社の財産の状況にしたがって行われます。
具体的には、退社時点の自己資本の額のうち、退社社員の出資割合に対応する金額を払い戻すということです。したがって、出資以降の累積損益が反映されるということになります。
合同会社の社員は、自らの持分を他人に自由に譲渡することができません。このため、退社に際して投下資本の回収手段を設けているのです。
出資の払戻しと同様、退社に伴う「持分の払戻し」についても制限があります。
具体的には、持分払戻額が、その持分の払戻し日における剰余金額を超える場合には、債権者は合同会社に対し、異議を述べることができるなどの債権者保護規定がおかれています。
さらに、合同会社が債権者保護手続きを得ないで「持分の払戻し」をした場合には、その払戻し業務を執行した社員は、持分の払戻しを受けた社員と連帯して、持分払戻額相当額を会社に支払わなければならないこととされています。
Ⅳ.具体例
(前提)
・合同会社甲
・資本金は150万円
・Aが100万円を金銭出資
・Bが50万円を金銭出資
①出資の払戻し
Aが退社せず、30万円の払戻しを受ける場合・・・甲社の資本金は120万円となる。(社員はAとBの2人)
②持分の払戻し
Aが退社して、100万円の払戻しを受ける場合・・・甲社の資本金は50万円となる。(社員はB独り)
Ⅴ.税務上の注意点
「出資の払戻し」「持分の払戻し」ともに、払戻額が資本金等の額を超える部分は「みなし配当」となりますので、課税実務上注意が必要です。
また個人社員の場合、「払戻額ーみなし配当額」が譲渡収入金額とみなされるため、当該払戻し部分の取得費と譲渡費用との差額が株式等に係る譲渡所得に該当し、確定申告が必要となります。
なお、「出資の払戻し」については通常、払戻額が資本金等の額以下であるため「みなし配当」の生じる余地は生じません。
(例示)
・合同会社X社
・個人社員Cの出資額50万円
・個人社員Dの出資額100万円
・資本金等の額150万円(C:50万円、D:100万円)
・個人社員Cへの払戻額110万円
・譲渡費用は0
この度、合同会社Xは個人社員Cの退社にあたり「持分の払戻し」を行ったとする。
(個人社員Cの課税関係)
①みなし配当
110万円-50万円=60万円 ∴60万円がみなし配当(配当所得)となる。
②譲渡所得
(110万円-60万円)-50万円=0円 ∴課税なし
(合同会社Xの課税関係)
①会計処理(仕訳)
(資本金) 500,000(現預金)977,480
(利益剰余金)600,000(預り金)122,520
②税務処理
みなし配当60万円について、20.42%(復興所得税を含む)の税率により122,520円を源泉徴収し、翌月10日までに国に納付する必要があります。
この例のように思わぬところで課税関係が生じることがありますので注意が必要です。
(税理士 橋本ひろあき)